テレワークの実存とは

 弊社では一部テレワークを行っている。

 なぜ一部かというと、それしかできないからだ。簡単な話である。

 淡路島に社員まとめて島流しに出来るような巨大企業ならまだしも、何の変哲もない中小企業に出来る事などたかが知れてる。前回の非常事態宣言が出て早くも1年近くになんなんとするが、一番最初にテレワークを始めると朝礼で宣言されたときは心底驚いたものだ。

「何たる無謀」

 言っても未だにFAXと手書きの帳簿が主流の弊社である。テレワークと言って何をしろと。弊社の主たる顧客は製造業なのだが、小規模自業者、平たく言えば町工場ではFAXが一番のITソリューションだ。あとはひたすら電話である。

 何しろノートパソコンもなく、社内システムを確認することも出来ず、クラウドで接続もできない。データ流出を恐れてのとのことだが、正直弊社のデータを虎視眈々と狙う相手というのも想像がつかない。かくして、私も含めた営業担当者は顧客にも訪問できず、社内業務も溜まるに任せるまま、日々携帯電話の前で呆然と立ちつくす日々を送る事となる。

 弊社とは比べ物にならない大手企業、もしくは個人や国家の情報を扱う企業では、社員用の携帯電話も持ち帰れないなどと伝え聞く。それこそ呆然と立ち尽くす以外の何をすればいいのだろう。

 やがて立ちつくす事に飽いた我々は、テレワークの名のもとに家事や趣味に勤しむことになり、もうすぐ1年が過ぎようとする。

 最初のうちはしおらしく週数回のテレワークなどと言っていても、そのうち感染者数も数字上は減ってゆき、出社日も増えていき「やっぱりお客さんとは会って話さないとねぇ」「そうですねぇ」から「久しぶりにどうですか、密にならないように」「いいですねぇ」となり「(ゴルフのスイングをしながら)どうです、今度」「フェアウェイだったら密じゃないですしねぇ」等々の仕儀に至り、あの年末へとGOTOするのである。

 ここで再度非常事態宣言など出した処で結果は御覧の通り、街には人が溢れ、8時までしか空いてない居酒屋には人が駆け込みギュウギュウ詰めである。何せ酒を飲みながら会食をしないと死ぬ病気にかかっている連中が政権運営している国である、当然の結果である。コロナウイルスが8時までは活発化しないというデータがあるのか知らん。

 先日も、テレワーク中に顧客から、納入した製品に関する不具合の連絡があり、当然出社、顧客に訪問し、誰一人マスクをしてない顧客相手に不具合の対応をした。

 社内処理を済ませ日も落ちかけた夕方、テレワークに戻るべく帰宅しようとした処、出社してきたテレワーク中の同僚と鉢合わせた。

「あれ、今日テレワークじゃなかったでしたっけ」 

「いや、ちょっとしたトラブルがあって。そっちこそ今日はテレワークじゃないんですか」

「いや、これから担当先とリモート会議をするんですよ」

「それこそ自宅からでいいじゃないですか」

「いや某上司が、『ウチからも何人か参加するんだから、こういった事は膝を突き合わせて話した方が良い』って…」

続けて同僚はこう問いかけてきた。

「テレワーク中にリモート会議を全員同じ場所でやるって、何なんですかね」

些か、はにかんだような表情を浮かべ、そう問いかける同僚に私も、

「何なんだろうね」と虚ろな笑みを返した。

 

このように我々はついぞテレワークの実存を理解()せぬまま、非常事態宣言解除に突き進むのである。