燃ゆる女の肖像:感想(ネタバレ有)

2021年1月1日鑑賞

 燃ゆる女の肖像

解説

18世紀フランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描き、2019年・第72回カンヌ国際映画祭脚本賞クィアパルム賞を受賞したラブストーリー。画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく2人だったが……。「水の中のつぼみ」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、エロイーズを「午後8時の訪問者」のアデル・エネル、マリアンヌを「不実な女と官能詩人」のノエミ・メルランが演じた。

2019年製作/122分/PG12/フランス
原題:Portrait de la jeune fille en feu
配給:ギャガ

(以上、映画.comより)

 

  どうも、NOTOと申します。この日は足首が痛かったです。痛風かな。

 

 今更ですが、とりあえず今年初めて見た鑑賞の映画ということで、感想を。

 

 いや、なんというか人によって見方がすごく変わる映画でしょうね。

 歴史に残る名画だという評が多いと感じますし、実際よくできた映画ですが、

話としては、まぁようある話ですよ。

 

 絵描きが、意に添わぬ結婚をしようとしている、孤島に住まう深窓の令嬢をモデルに肖像画を描いている間に恋に落ちる、しかしその絵を描き終える時が2人の別れの時…

 ストーリー自体はホントによくある恋愛物なんですね、立場の違いによる悲恋物。

 嗚呼、良くあるおフランスムービーね、ブシュブシュ解ったようなこと言い合ってるのね、映像はきれいなのね、などと皆さん想像しますが(偏見)、そのカップルが女性同士になるとこんなに切り口が変わるものかと。

 そもそもこの作品、ほぼ女性しか出てきません。

 最初に肖像画を依頼された男性画家は、モデルのエロイーズに会うこともできず、顔が描けずにお役御免。あとは画家マリアンヌを孤島まで運ぶ船乗りぐらい。肖像画を依頼した貴婦人の夫も他界しているらしく、島には使用人のソフィ含め女性のみ。ちょっとした女護ヶ島状態です。

 

 ざっとしたあらすじですが、貴婦人に娘エロイーズの肖像画を依頼された画家マリアンヌは、肖像画を描く目的を隠し、エロイーズの話し相手として島に向かい、話し相手として徐々に打ち解けながら、隠れて肖像画を描き上げる。正体を明かしてエロイーズに肖像画を見せますが、『こんなのアタシじゃない!』的にキレるエロイーズに、マリアンヌもキレ返して顔を塗りつぶしてしまいます。伯爵夫人に5日以内に書き直すように言われたマリアンヌにエロイーズはモデルとしてポーズをとることを約束。

 伯爵夫人が不在の5日間の間、ソフィーも含め女3人で、料理をしたり、カードをしたり、オルフェウスの神話について語り合ったり、夜祭で燃える女になったり、ソフィーの堕胎を手伝ったり(!)キャッキャウフフと過ごしている間により2人は親密になっていきます。散策中、とうとう海辺の洞窟で接吻を交わすと、一夜を共にすることに。溺れるよう愛し合う2人ですが、約束の期限が来てしまい絵は完成。マリアンヌはエロイーズの小さなスケッチを描き、エロイーズは愛読書の28Pにある余白にマリアンヌの自画像を描くよう頼みます。

 島を離れる当日、思いを振り切るよう屋敷を出ていくマリアンヌに対し、エロイーズは振り返ってと声をかける。思わず、冥府から帰るオルフェウスの如く振り返るマリアンヌは、花嫁衣裳のエロイーズを目にする。その後彼女たちは2度再開します。一度は展覧会で、母となり子を抱いた肖像画のエロイーズと。その手はあの本の28Pに指を差し込んでいました。もう一度はコンサートホールで。向かいの桟敷席に座ったエロイーズはマリアンヌのほうを向かず、思い出の曲、ヴィヴァルディ協奏曲四季の夏を聞きながら激しく嗚咽するのだった。

 

 てな具合ですが、恋愛映画として、実に優れてますよ。2人の人間が出合い、惹かれあい、恋に落ち、やがて別れる。この行程が実に丁寧かつ繊細に描かれていて。異性愛者同士の、普通の恋愛映画(今はそう言っちゃ行けないのかな)でもあるような、お互いの距離の縮め具合とかが実に絶妙。

 これ、画家役が男性だったら、まずは話し相手から、とはならないだろうし。仕事としてモデルになってもらうより、話し相手として打ち解けてもらうほうが、よっぽど難しい様な。最初に話し相手として交流していたから、モデルと画家という関係よりも深く観察し合えていたんじゃないかと。最初の肖像画のコレジャナイ的ダメ出しも、もっと私を見て、というメッセージを感じます。

 だから、5日間の女3人シェアハウスライフがもう楽しそうで。もしあれがエロイーズじゃなくてお姉さんだったら、自殺することもなく、たまに思い出の宝箱からあの5日間の記憶を取り出し、舐り倒してはコンサートホールで号泣する日々を過ごせてたのではないでしょうか。それも辛いな。

 特に、一線を越えてからの2人のバカップルぶりがまあ面白くて。ピロートークの、いつからヤれそうだと思った?(まぁそんなニュアンスの会話っすよ)とか、絵をかいてる真っ最中に、マリアンヌに癖を指摘されエロイーズが相手の癖を指摘しあう、あなたを見ているマウント合戦からの雪崩れ込んでいく感じ(パターンは違うけど、リーサルウエポン3のメルギブとレネ・ルッソを思い出した)なんかが、そりゃセクシャリティ関係なくヤることは概ね変わらんよなー、などと思いながら笑ってしまいましたよ。

 

あとマリアンヌが最後、エロイーズの本に自分のスケッチを描く時の手鏡の置き方。まさに万華鏡。最高ですね。絵を嗜む人たちはぜひ試してみてください。28ページの秘密… 『燃ゆる女の肖像』ラストネタバレあり|フクイヒロシ(映画垢)|note

 

 でもこの弾けっぷりも、終わりがあるからだと思うとなかなかに辛くて。

 特に通底するのが、18世紀フランスにおける女性の立場の辛さというか、もちろん当時のフランスだけではないでしょうけど、そもそもエロイーズは知らない奴と結婚するために修道院から呼び戻されるわ、マリアンヌも父親名義でゴーストライター的な事をやらされているとか、堕胎したことがあるとか、ソフィーが堕胎する理由は不明ですが、まあいろんな理不尽が彼女らに覆いかかるんですね。それも男由来の。

 男は画面にほとんど出てきませんが、通底する抑圧の原因として常にそこにいるんですね。だからこそMetoo運動やLGBTQへの理解が当然となりつつある、この時期に作られて評価されたのはホントに素晴らしいなと。まぁ狙い通りではあるんでしょうが。

 後、最近でも女性同士のカップルはネコとかタチとか言うんですかね。凛としたエロイーズ(スカートに火がついても全く動じない程に!)が、世間ずれしたマリアンヌにリードされていくかと思いきや、エロイーズが離れかけたら泣いて縋るみたいな所も、カップルのやることは性差万別なく変らないのだなぁと感心しましたよ。男性が全く居ない状況だからこそ、性別によるロールの固定化から逃れてるというか。

 あと、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」をよく聞いているのですが、映画評コーナ『ムービーウォッチメン』に、プロの画家から「使われてる絵が下手すぎてノれなかった」的な投稿が来てて、そうなのか!と絵心のない人間は(゚д゚)!ですよ。いや映画作るってホント大変なのね。

 

まだ上映しているみたいですので、恋愛映画が好きな方はぜひ劇場に。

 

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元旦の日比谷の様子。閑散としてましたよ。

ではまた。